美しい日本語で読み易い文章を書く作家/推薦作品
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084 2014/11/04(火) 20:28:02 ID:2GqU4d9/FU
江國香織の文章はとても肌触りが良くて瑞々しい。以下、小説から一部抜粋。
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エスコバル、という名の小さな町の日本人居留区で、佐和子は生まれ育った。あの町の空の青さと、はためくシーツのひんやりした匂い——妹と二人で、よく顔をくっつけたものだ。濡れた、大きな、つめたい布に——を、佐和子は懐かしく思い出す。月曜日には、だからよく遅刻をした。(『金平糖の降るところ』(単行本)、三ページ。)
一体どうして、倉敷の玉子はこんなに美味しいのだろう。皿に残った黄色い液体—やわらかなスクランブルエッグを食べ終わったあとの、バターの香りの強い玉子液—をパンの切れ端ですくいとり、静枝はガラス越しの日ざしに目を細めた。目の前の何もかもが心愉しい。うすピンク色のテーブルクロスも、各テーブルに一輪ずつのカーネーションも、銀色の砂糖壺におしこまれた合成甘味料の小袋さえも、運命的必然によってここにあるのだという気がした。(『ホリー・ガーデン』文庫版、九十ページ。)
ママはシシリアンキスというカクテルを飲んでいた。カクテルをつくるのはパパの役目で、パパのつくるシシリアンキスは「倒れそうに甘くて病みつきになる味」だったそうだ。グラスの液体はとろりとした琥珀色で、「午後の戸外の飲み物として、あんなに幸福なものはない」らしい。氷が日差しをうけてみずみずときらめくのだそうだ。(『神様のボート』文庫版、九ページ。)
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