スレ主の意図は、作家/推薦作品/例文だと思うけど、あまり具体的なサンプルを出す人がいないね。
まあ、ともあれ、岡本綺堂を推薦したい。
けど、オレは文学的素養に欠けているので、なぜこのような平易な文なのに深い読みごたえを感じるのか、
文学的論評を加えることができない。
(稚拙な個人的な意見だと、まるでテンポよい講談を聞いているような心地よさとでもいうべきだろうか)
だから、ここに同業の小説家が褒め称えた綺堂の一文をピックアップしておこう。
「西瓜」より、都築道夫が、「きびきびとした武士の動作が、目に見えるような文章」と褒めた一文
“然らば試みに割ってみようというので、彼は刀の小柄を突き立ててきりきりと引きまわすと、
西瓜は真っ紅な口をあいて、一匹の青い蛙を吐き出した。”
次に浅田次郎が取り上げた、「半七捕物帳」の第一話「お文の魂」から。
“笑いながら店先へ腰を掛けたのは四十二三の痩せぎすの男で、縞の着物に縞の羽織を着て、
だれの眼にも生地の堅気とみえる町人風であった”
これをもって浅田次郎はこういっている。
「岡本綺堂の筆は冴える。「縞の着物に縞の羽織」というのは、相当な粋人の身なりであろう。半七はおしゃれなのである。
だからつづいて「生地の堅気」と言い添える。外見は派手好みだが決して遊び人ではないよ、という意味である。
この「生地の堅気」の一言はうまい。さらに、四十二、三といえば当時は初老とも思える壮年で、
世の中の酸い甘いをわかっている年齢の男が、余裕綽々と笑いながら店先に腰を掛ける。
このたった一行半のプロフィールを描くために、下手な作家なら一枚を費やすであろう。
主人公登場の手本のような文章である。」
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